【ひつじのめる(20代後半男性)の声】 前に進むということ(2023年4月) 

八おき塾(福岡わかもの就労支援プロジェクト)の受講生となり二年が経過しました。先日、卒業日が決まりました。これまで両親やコーチの皆さんに迷惑をかけましたが、おかげさまで卒業というところまで来ることができました。振り返ると、初めて八おき塾に来た日の帰り道、「自分、来るところを間違えたのではないか」と思いました。そんな自分が二年も受講生としてやってきたこと、そして時間がかかったものの卒業するところまできたのです。そのため「よく辞めなかったな」と思います。一方で「驚きも不思議でもない、そういうものだ」とも思いますが。

前回の「若者の声」で「アルバイトに行くことが目標」と書きました。もちろんその目標は達成されましたが、予想以上に時間がかかりました。最終的には十回目の面接で採用が決まりました。それまで、声が小さいのか、姿勢が悪いのか、質問に答えるときの中身に問題があるのかといったことを見ていきながら「目標の達成」に近づけていきました。スーパーのアルバイトに採用が決まったという電話がかかって来た時の嬉しさはそこまでなかったのですが、良かったと思いました。嬉しいとすれば、自分がアルバイトに採用されたことではなく、それをコーチの皆さんに報告できることでした。そうして人生初のアルバイトの初日を迎えることになりました。しかし、それは必ずしもいいことではありませんでした。

まず、アルバイトの初日を終えて感じたことは先が思いやられるということでした。商品整理では、ある従業員の方に作業のスピードが遅いことを指摘され、レジ打ちでは、商品をかごに移す際に、買い物袋の上に商品を置いてしまったことをお客さんにとがめられたことから始まり、クレジットカード支払いのときのカードの向きに苦戦するといったことがありました。そして、週五日の七時間勤務でやっていくことでした。八おき塾での就労訓練を経てここまできたとは言え、当時目標としていた「アルバイトを三か月続ける」ことができるのか疑問でした。ですが、こんな自分も最終的には一年三か月続けることができました。
では、なぜ自分がそこまで続けることができたのでしょうか。考えてみるといくつもの要因がありますが、これが一番大きいと考える要因があります。それは、従業員の方々の助けだということです。レジ打ちで困ったことがあればあの手この手でやってくれたり、品出しのことを教えてくれたり、自分が掃除当番でレジに入れない時に入ってくれる、といったようなことが何度もありました。その中で、私はレジ打ちも商品整理もアルバイトを始めた時よりできるようになっていったというのがありますし、何と言っても「仕事は協力して行う」ということを体感できました。
そのほかの要因としては、お客さんにお褒めのお言葉を頂いたことです。一番印象に残っているのは、ある女性のお客さんに「いつも見てますけど、お仕事がていねいで頑張っていますね」と言われたことでした。五十代と思っていたその女性のお客さんは、本人いわく六十代とのことでしたが、こんな自分でもこういうことを言われるとは思いませんでした。自分自身さらに頑張ろうと思いますし、これが仕事の良さの一つだと身をもって知ることができました。
もう一つ要因があるとすれば、「なぜアルバイトに行っているのか」ということを忘れなかったことです。私は教わったこと、指摘されたこと、気付いたこと、気を付けることに加え、今回の勤務がどうだったのかを毎回、小さめのノートに書いていました。同じ失敗を繰り返さないことや反省の意味もありますが、「なぜアルバイトに行っているのか」を忘れず、これを自分の成長につなげていこうと思いやっていました。

従業員の方々のおかげで一年以上続けることができたスーパーでのアルバイトでしたが、元々はドラッグストアに行きたかったというのがありました。スーパーでのアルバイトを始めて半年が経過した時からドラッグストアの面接を受け続け、十五回目の面接(スーパーに入る前に受けた十回の面接のうち五回がドラッグストアの面接なので二十回目の面接ともいえる)で採用が決まりました。これが八おき塾の卒業日が決まるのに時間がかかってしまった最大の原因です。
この「若者の声」のはじめのほうにもあるように、それだけ両親やコーチの皆さんに迷惑をかけてしまいました。ですが、コーチの皆さんが自分の行きたい道を尊重してくれたことが凄く良かったですし、そのことも含め自分がそうしたいといったからには実現するまで卒業できないと思いました。そうしてドラッグストアに採用が決まりました。実際は、午前の時間帯で人手が足りないということがはまり、運が良く採用となったとしか言いようがないですが、諦めずに面接を受け続けた結果なのでよかったと思っています。

八おき塾の受講生としての二年間は「働く」とはどういうことかを身をもって知る期間でもありました。もちろんスーパーでのアルバイトがその大半を占めます。例えばスーパーだと、お客さんから商品の価格が値札にあるものと違うということでお叱りを受けることがありました。これが連帯責任というものかと知ることができました。でも「働く」ということで最初から最後まで悩み苦しめられたこともありました。
まずは、レジ打ちの際にお客さんが購入される商品をカゴにどう入れるかです。商品がたくさんあり、色んな重さのものがあればそれだけ難しくなります。重いものを下にして、卵は上にというようにやっていきますが、入れ終わった後に本当にこれでいいのかと思うことがしばしばありました。時にはお客さんに「丁寧にやらなくてよい」と言われるなど難しさを感じていました。
そして、一番これだなと思うのは、レジに並ぶお客さんの行列が長くなると、呼び出し機を使ってほかの従業員に「応援要請」をすることです。お客さんを長く待たせるのは何としても避けたいものの、従業員の方々は品出しや発注があるために呼び出すわけにもいかないと思うのです。そのため、お客さんにも従業員の方々にもできるだけ迷惑をかけないようにすることに悩み苦しみました。
ですが、今となってはこういうことを経験できてよかったと思っています。なぜなら、「働く」ことの深みに触れることができたのではないかと考えているからです。こうした経験が今後より良い仕事をしていくことにつながっていくのではと感じています。
いい経験ができた一方で、寝坊して遅刻したり、個数制限のある商品を節度なくレジで打ってしまったり、クレジットカード支払いができていないのにできていると思われたお客さんを帰らせてしまったり(後で気付いて店に戻られたそうなのでよかったが)とスーパーの従業員としてはとても褒められるものではありません。ただ、ガラス瓶(日本酒など)を一度も落としたりして割らなかったのは奇跡でした。   

スーパーでのアルバイトが大半を占める二年間、とあるベンチャー企業に雇ってもらおうと試みたり、AERAの取材を受けるといったこれまででは考えられなかった経験もしました。そして、スーパーでのアルバイトの最終日、勤務後に店長から頂いたケーキの入った袋に「一年と三か月お疲れさまでした。新しい道に進んでも頑張って下さい。」というメッセージが添えられていました。感謝の気持ちでいっぱいです。一生忘れません。
そうして新しい道に進んだ今、スーパーとは似て非なるところに絶賛苦戦中(苦笑)です。事の成り行きというのもあって、海外から来られる方が多い所でやっています。レジ打ちは支払い手段がいくつもあって、その上免税の対応もあります。品出しはこの商品はどこだっけとなってしまいます。後は、言語です。英語など、ある程度できたほうがいいのだろうと思います。
でも、医薬品に多少とはいえ関心があり、医薬品登録販売者の資格に魅力を感じ、それで正社員登用も考えていて、何よりお客さんや従業員といった色んな方々から学びたいと思いドラッグストアを目指したのですから、責任をもってやっていきます。

最後になりますが、八おき塾の受講生としてやっていく中で、自分自身挑戦するのは好きな方であることや、どんどん成長していきたいという思いに気付きました。これからのことですが正直怖さはあります。でも、挑戦することや成長していくことを大切にしてやっていけたらと思います。やっぱり、前に進みたいので。

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